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日本映画100年史

本【日本映画100年史】をリアルタイムで加筆していく、ライブブックブログ!

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「蜜蜂と遠雷」(配給/東宝)

2020.05.23 by 西川昭幸

音楽映画の最高傑作が生まれた!

「蜜蜂と遠雷」(監督・脚本/石川慶)は、2019(令和元)年10月4日公開された。作品は2016年下期に史上初の第156回直木三十五賞と、第14回本屋大賞をW受賞し、「文学から音が聞こえてくる」と話題になった恩田睦原作の「蜜蜂と遠雷」の映画化である。

「蜜蜂と遠雷」の公式サイトへは画像をタップしてください。

物語は国際ピアノコンクールを舞台に、コンクールに挑む4人の若きピアニストたちの葛藤や成長を描いた青春群像劇。3年に一度開催される若手ピアニストの国際コンテストに天才と呼ばれる若き4人のライバルたちが刺激し合い、自分の音楽と向き合う。そして演奏を通じて友情と人間性を高めていく物語である。このプロセスが素晴らしい。

映画化は無謀!といわれたこの作品に敢然に挑んだのが、恩田睦原作に惚れこんだ新鋭・石川慶監督。この作品はまさに監督の前作「愚行録」で魅せた力量が生かされた力作となった。なにより作中の迫力ある演奏シーンが素晴らしい。日本最高峰のプロピアニスト・川村尚子、福田洸太朗、金子三勇士、藤田真央などを使い、更に、東京フイルハーモニー交響楽団、それに4人の俳優が、まさに本物顔負けの熱演とあって、見ごたえも聴き応えも万全。私は小説を読んで「劇中の生の演奏を聞きたい!」と映画化を待ち望んでいたが、劇中の演奏シーンは充分に堪能できた。音楽フアンにはまらない作品となった。

優れたスタッフとキャスト、そして一音にまで妥協ない音楽

 この作品は、将来を担う豪華な出演者の「競演」がまた大きな魅力となっている。主役の亜夜役には、今、最も輝く女優になった松岡茉優。映画、テレビで目覚ましい活躍を続ける松坂桃李。アメリカ映画にも出演し、スティーブン・スピルバーグ監督からその演技力を絶賛された期待の若手、森崎ウィン。そして100人を超えるオーデションで選ばれた新人・鈴鹿央士。

この映画の質を高めたプロのピアニストと交響楽団。更に、更に楽しませてくれるのは、日本を代表する作曲家でロンドンを中心に国際舞台で活躍中の藤倉大が作曲した劇中の楽曲「春と修羅」。なんと素晴らしい曲か。このオリジナル曲で4人の運命を描くドラマが重圧なものになった。

天才4人のピアニストの熱い戦いと人間模様

 日本の芳ケ江国際ピアノコンクール(架空地)に集まった世界を代表する若手ピアニストたち。その中には復活をかける元神童・亜夜(松岡茉優)。音大出身の明石(松坂桃李)は楽器店勤務しながら夢のために不屈の努力をするが、参加年令制限ギリギリの28歳で最後の挑戦だ。そしてコンクールの大本命は、ルックスの良さと、育ちの良さから「ジュリアード王子」と呼ばれるマサル・カルロス・アナトール(森崎ウィン)。

そこに割り込んだのが、今は亡き著名なピアニスト・ホフマンに見いだされ「世界一の才能」と送り込まれた16歳の少年・風間塵(鈴鹿央士)である。 コンクールは、この異質な天才の登場により、3人の天才たちの運命を載せて物語が回り始める。果たしてそれぞれの想いが、音楽の神様にどのように届くのか、戦いの火ぶたは切られた。 ストーリーは、予選、本選と続きその場面は、圧倒的な本物演奏と相俟って観客を引きずり込む。

だが、私が大きな興味と感動を受けたのは、明石を含む4人のピアニストたちの生い立ちと音楽への執念、そしてかれらの挫折である。つまり「天才」と呼ばれる期待と重圧に立ち向かう人間模様が、実に鮮やかに描かれたことである。

 幼少の頃からピアノに向かった亜夜(松岡)は、母親を亡くした衝撃から音楽に恐怖を感じ演奏会を投げ出した思い出がある。その回想には、思わず涙腺がゆるんだ。

その彼女が、本番を前に再びその悪夢に苛まれていた時、風間塵(鈴鹿央士)が、リハーサルにそっと現れ、ドビッシーの「月の光」を連弾でひく場面は、その夜が満月であった事もあり忘れられぬ映像となった。

音楽で通じ合う友情と人間愛

また厳しい選考の中、名優・鹿賀丈史扮する指揮者のタクトによって最終リハーサルが開始、3人がそれぞれ東京フイルハーモニー交響楽団の楽員と音を交える。

誇り高い指揮者の楽曲上の理解が違うこともあり亜夜は、いじめに近い圧迫を受け絶望する。このリハーサル場面も秀逸、残酷で感慨深く、音楽の奥深さを知る意味で欠かすことが出来ない場面だ。だが、自信満々のマサルや塵は、オーケストラを自分の中に引き込みながら盛り上げていき技術で圧倒する。リハーサルを通じて、自信を失った亜夜を励まし、お互いに友情を高め合う本選は素晴らしい結末を迎える。
 一旦は、棄権も覚悟した亜夜は、プロコフエフのピアノ協奏曲第3番に挑む。その迫力は凄まじい。指揮者も思わず笑顔し、楽員も驚き、感性豊かな音色に目を輝かせる。同じくプロコフエフの第二番第4楽章を弾くマサル、そして塵のピアノの手法に会場は割れんばかりの拍手に包まれる。
 そして長い天才たちの戦いは終わった。「音楽は自然から取り入れ自然に返す」と言われるが、ホフマンから塵は、「音を外へ連れ出す」と教えられた事を実行できたのだろうか。それは音楽を聞いた観衆しか理解できない。この作品は「文学と映画の見事な融合から生まれた感動」編である。それを成し遂げた石川監督に拍手を贈りたい。

なおこの作品は2019(令和元)年度の第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、松岡菜優が最優秀主演女優。森崎ウィン、鈴鹿史士が新人俳優賞を受賞。優秀音楽賞は藤倉大、篠田大介が受賞した。併せて第74回毎日映画コンクールでは日本映画大賞、監督賞を受賞。報知映画賞では作品賞、鈴鹿史士が新人賞を受賞している。その他、山路ふみこ映画賞で作品賞。日刊スポーツ映画大賞で松岡菜優が主演女優賞と続いた。これ以外の各コンクールでも受賞があり、高く評価された作品で有る。(札幌在住シナリオ作家 森 道夫)

拙著<美空ひばり最後の真実>が発売中です。

Filed Under: 令和 Tagged With: 東宝, 松坂桃李, 松岡茉優, 森崎ウィン, 森道夫, 石川慶, 鈴鹿央士, 鹿賀丈史

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著者紹介(西川昭幸)

1941年北海道生まれ。東洋大学社会学部卒。
映画会社勤務などを経て現在、公益社団法人理事。
<主な著作>
「北の映画物語」(北海タイムス社)、
「美空ひばり公式完全データブック 永久保存版」(角川書店)、
「活字の映画館 明治・大正・昭和編」(ダーツ出版)、
「日本映画100年史」(ごま書房新社)、
「美空ひばり最後の真実」(さくら舎)、
「昭和の映画ベスト10、男優・女優・作品」(ごま書房新社)

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