
「千年女優」(クロックワークス)

“騙し絵”のような映画を作りたい
「千年女優」は、2002(平成14)年9月に公開された、原案・脚本・監督・キャラクターデザイン:今 敏による日本のアニメーション映画である。
作品の切っ掛けは、今の前作「パーフェクトブルー」を見たプロデューサーの真木太郎が前作と同じような映画を作りたいと今に訴えたところ、具体的にどんな映画かと問い詰められ、答えに窮した真木が「 “騙し絵”のような映画を作りたい」と言った返答から「かつて大女優と謳われた老女が自分の一代記を語っているはずが、記憶は錯綜し、昔演じた様々な役柄が混じりはじめ、波瀾万丈の物語となっていく」というアイディアに結実した。
なお、プロデューサーの真木と企画の丸山正雄は、後年、あの名作「この世界の片隅に」を作ったコンビである。
取材者側も回想に入り込んで、共に時間を旅する
アイディアを膨らませる段階で、自分の一代記を物語る主人公とそれを聞く者が設定され、その取材者側が相手の回想に入り込んで、共に時間の旅をし、それだけでなく回想の登場人物としても登場する、という“騙し絵”的な構造を持つスタイルとなった。
またプロットの時点で映画のラストシーンがイメージされ、結果として、それは完成した映画にそのまま残った。
こうして、物語の最初と最後を形作る構成と大枠の構造が決まり、中に盛り込むエピソードや人物の細かな設定などはシナリオライターの村井さだゆきや、プロデューサーの真木も交えて膨らませて行われたが、結果的に多くの時間がかかった。

原節子に田中絹代と高峯秀子を足したようなキャラクター
時間がかかった理由は、主人公が回想する映画のエピソードの決定である。
主人公は原節子に田中絹代と高峰秀子を足したようなキャラクターで、出演映画は古き良き日本映画の黄金時代に制作された数多の名作を思い起こさせる。
主にどういう時代でどういうエピソードを盛り込むかという問題は、同時に劇中にどういう映画を選択するかということでもあった。
作品は映画出演に関するエピソードの連続であり、それらのエピソードをどのように繋ぐかが最も難航した。
一つの繋ぎをいじると、それまで考えていたアイディアが使えなくなり、結局、書くたびごとに盛り込むアイディアが変わってしまう。
それだけ流れを大切にしたため、アイディアを絞り込むまでが大変だった。
ドリームワークスにより世界公開と米・アカデミー賞にエントリー
作品は日本公開後の2003(平成15)年に、スティーブン・スピルバーグが率いるドリームワークスが全世界配給権を獲得して、全米公開が行われ、37,641ドルの興行収入を上げた。
勢いに乗ったドリームワークスは、アカデミー賞長編アニメ映画賞候補作品にエントリーしたが、惜しくもノミネート落ちとなった。
今監督は2010(平成22)年に亡くなったが、全米公開から十数年が経過した2019(令和元)年8月、全米700館以上の劇場で、英語字幕に加えて英語吹き替え版も新たに製作された「千年女優」はリバイバル公開され、さらに国際アニメーション映画協会が主催する「第47回アニー賞」において、生涯功労賞に当たる「ウィンザー・マッケイ賞」を受賞した。
日本映画に対するオマージュとして作ったわけではありません
女優が主人公で、邦画の名作を意識したシーンも多いが、作品は日本映画に対するオマージュとして作られたわけではない。
「この映画は私の「宣言」といえるかもしれません。
それは私の今後の創作活動の在り方、あるいは宗教観も含めた生き方そのものの宣言といってもいいです。
それは最初から意図したというわけではなく、作っているうちに分かってきたことのように思えます。
たとえ周りの人間に迷惑をかけようとも自分自身の思うところに誠実に、時には周囲や自身と壮絶な葛 藤をしながらも真摯な態度で生きた人、生きている人、そして生きようとしている人に対するオマージュといえるかもしれません」と今は語る。
なお、劇中に登場する、主人公出演映画のポスターは全て今本人が描いたものであり、それらは下記の『千年女優』特集ページで確認できる。
http://animeanime.jp/special/323/recent

