
「リズと青い鳥」(松竹)

スピンオフだが、”1本の独立した映画”としても成立
「リズと青い鳥」は、2018(平成30)年4月に公開された。原作:武田綾乃、脚本:吉田玲子、監督:山田尚子による日本の長編アニメーション映画である。本作はテレビアニメシリーズ「響け!ユーフォニアム」の続編であり、スピンオフだが、”1本の独立した映画”としても成立するように制作されている。 公開当時から絶賛されており、第73回毎日映画コンクール 大藤信郎賞を受賞した。
女の子の秘密を覗き見したような気分
作品は、「響け!ユーフォニアム」の企画会議の場で、原作の武田が、こんな新作を書いているとプロットを見せたことがきっかけだった。 このプロットを1本の映画にする場合、どこに焦点を絞っていくかという話になったが、監督の山田は、脇役の女子高生二人のエピソードに女の子の秘密を覗き見したような気分になった。 恋愛でも男女の関係でもない、一番親密な者同士が普通は隠すような、なかなか口には出すことの無さそうな羨ましい思い、好きな思い、嫉妬などの感情を包み隠さず、綺麗事にせず、ダイレクトにぶつけて書かれていることに、ときめくものがあった。そこで、分けてしまって単独の作品として二人に焦点を当てた物語を作りたい、と山田が武田に確認したところから、企画がスタートした。

自分からは出てこない切り口
「二人の存在感がすごくて、何かを訴えかけられているような、見てみぬ振りはできないと思わせられるほど魅力を感じていたので、ぜひ彼女たちの物語を描きたいなと思いました。(中略)女の子の秘密のような、あまり公にするお話ではないという感じがして。二人が秘密をこっそり出していくのを、ときには椅子になり、ガラスになり……彼女たちに気づかれないようガラス越しに覗き見るように記録していきました。(中略)何となく“成長して骨が伸びる瞬間、その前の初期微動”みたいな感覚を映像にしたいと思っていたのですが、自分の絵コンテを描いていても、なんか胸が詰まっていて。“この胸が詰まっている感じに名前を付けてください”って、みなさんに募集をしたいです(笑)」と山田は語る。
記号的な芝居付けをしない
本作は女の子二人の繊細な心情、心の積み重ねにフォーカスする作品であり、「悲しいから悲しい表情をする」と言う記号的な芝居付けをしないよう、表現の近道を選ばないことを大切にした作品である。 また、言葉として外に出しているものと実際に思っている事は違う事の方が多く、そんな時は口元の表情とかではなく、他の部位に“本音”が出ているのではないか、と演出プランを山田は考えた。
「しぐさというのは、彼女たちひとりひとりの思いの中から生まれてくるものだと思うんですね。 だから彼女たちの心が動いた瞬間にどんなことを思っているんだろう?と、そのときのしぐさを取りこぼさないように心がけました。(中略)だからセリフで表す熱量と、しぐさや空気感で表す熱量のバランスをとても大事にしています。 口に出していることと、思っていることが正しく合致しないことだって多い。(中略)なので言っていることが全てではないというのが、この作品の肝ではあると思います。 言葉を答えにしたくはなかったんです」
言葉にしていることが正解ではない
また、山田は、キャラクターが感情を高ぶらせている時の表情は、その子自身はそれを皆に観て欲しくないだろうと考えており、泣いたり怒ったりしている感情や表情は、その子が見せたくない秘密だからこそ、それを観客に見せずに、キャラクターの尊厳を守ることを優先した。
「今回は、“何でもなさ”を大事にしたいと思っていました。 なので、見せられるために作られた動きではなく、彼女たちの思考において生まれた言動を、何でもなく自然に描くという事を大切にしているんです。 今作でも特に、そこの世界で生活している彼女達を“撮らせてもらっている”という感覚がありまして。 『好きにしておいてね、勝手に撮るから』という気持ちでおりました。 キャラクターたちの魅力を何よりもちゃんと撮りたいのです。 動かしたいと思わず、動いているものを撮りたい。 彼女達を自分が動かしたいように動かすのではなく、彼女達の感情から出る動きを撮りたい気持ちの方が強いです」。

