
「花とアリス殺人事件」(ティ・ジョイ)

実写映画「花とアリス」の前日譚
「花とアリス殺人事」は、2015(平成27)年2月に公開された、岩井俊二の原作・脚本・監督による日本の長編アニメーション映画である。 2004(平成16)年公開の実写映画「花とアリス」の前日譚となる作品であり、声の出演も同作に出演した蒼井優と鈴木杏が務めた。 作品は新宿バルト9ほか全国40スクリーンで公開され、第19回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞した。

蒼井優と鈴木杏が小学生を実演するのは無理
岩井俊二によれば、企画自体を考えたのは、前作が公開されたすぐ後である。
「他の映画と違って、始まりがあって終わりがある物語というよりも、花がいて、アリスがいると、もうそれで話が次から次へと出てくる物語だったので、続きが浮かんできてしまって、止めることができなかった」
しかし、スピンオフの前日譚として、最初は小学校の設定にしていたため、蒼井優と鈴木杏が小学生を実演するのは無理と考え、最初からアニメーションで描くことを考えた。 そして、岩井が自分でもやれるアニメがあると思って辿り着いたのが、まずは実写映像を撮り、それをなぞるかたちでアニメーション映像にする、ロトスコープと呼ばれる手法である。 岩井は、実写の監督なので、ベースに役者さんの芝居を据えてアニメにする方がやりやすかった、という理由もある。
スタジオジブリの鈴木プロデューサーに相談
脚本を書き上げた岩井は、スタジオジブリの名プロデューサー鈴木敏夫に相談したが、ロトスコープには反対された。 しかし、反対した鈴木は、以前から岩井の才能に注目していた。
「実写畑の人がよくアニメーションをやったなと思うだろうけど、岩井さんの作品に絵コンテがあるのは明らかだと思っていたので、岩井さんならアニメーションを作れるなと昔から思っていたんです」
その後、企画は予算を含め、様々な都合により、実現までいかず、途中で立ち消えになった。 数年後、鈴木の下で映画のプロデュースを学んだ、株式会社 STEVE N’ STEVENの石井朋彦に、たまたま作品の構想を話したことで、岩井のロトスコープの可能性に対する好奇心と、石井が持つ3DCGの発展性が重なり、ロトスコープと3DCGが上手くコラボレーションできないか、とプロジェクトが再始動した。
ふたつ分の現場をやったような感じ
「漫画家を目指していたこともあったので、絵を描くのは好きなのですよ、その絵を動かしてみたいなという欲求があって」と語る岩井が全編の絵コンテを描いて、撮影はスタートしたが、結果的にかなり試行錯誤の作業となった。
「実写の場合は撮って編集で仕上げてしまえば終わりなんですが、今回はそこからアニメの制作が始まるので、ふたつ分の現場をやったような感じではありましたね。 まずはオーディションで役者さんを選んで、実際に撮影を行いました。 ロトスコープの場合は、映像はあくまで素材になるので、ひとりで何役もやっていたりしますよ。 20日間くらいかけて撮りましたね。 それをベースに3D CGを作ったり、ロトスコープとして手描きでなぞって、さらに3D CGであがったものを手描きで修正したり、とかいろんなことをやって、こういう仕上がりになった感じです。 当初はメインキャラクターを3DCGで作って、周りを囲んでいる人々を、エキストラを使って撮影しロトスコープで作ろうとしていました。 しかし最終的にはメインキャラクターの一部をロトスコープにしたり、中盤は全てロトスコープだったり、とどんどん両方の技術が複雑に絡むようになっていきました」
ロトスコープは、実は時代劇に向いている
こうした苦労の末、無事、作品を作り上げた岩井だが、今後のアニメ制作への意欲について、少し意外にも思えるアイデアを語っている。
「予定はまだありませんけど、またやりたい気持ちはありますね。 やっている間中おもしろかったですね。 だいぶ作り方がわかったので、次はもうちょっと安定的に作れたらなあと思います(笑)。 ロトスコープは、実は時代劇に向いているなって思っているんです。 3D CGでも着物の表現って難しいと思うんですよね。 そのときに、ロトスコープならほぼ正確に表現できるんで、時代劇はあっているんだよなっていう。 ぼくがいきなり時代劇やるのって違和感あると思いますが」

