
「男はつらいよ50 お帰り 寅さん」
「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ。おじさん、どっからでも飛んできてやるから」(車寅次郎)
この映画のキャッチフレーズに私の涙腺はゆるんだ。第1作の公開から50周年となる2019年50作目、まさに奇跡の映画が誕生したのだ。

本当にうれしい。通常映画シリーズは、主役が亡くなればそれでエンドである。ところがギネスブックに認定された世界一のこの作品に監督の山田洋次が燃えた。そして脇を支えた倍賞千恵子ら生存するキヤストたちも呼応した。
現在85歳の私は、主役の寅さんを65年前から知っている。学生時代「新宿フランス座」のコメデアンとしてあの滑稽なアドリブに青春の息吹と笑いを感じたのもまさしく「渥美清」である。大学卒業後、北海道の民放局に就職した私は、いわば同業者でその後始まった寅さんシリーズ作品は全て観た。
結婚してからは妻や子供を連れて正月の娯楽も兼ね、欠かさず大笑いをしながらも人生の教訓を得る事が出来た。退職後も寅さん映画に執着して友人らから譲られたVHSを含め約40本のビデオを所持。今や私の宝物でもある。

ファンが待っていた寅さん
さて本題の今回製作された50作目の「男はつらいよ50 お帰り寅さんは」は、全ての作品で原作、演出として関わった山田洋次監督だからこそ完成した作品。
監督自ら「50年のあゆみが今まで観たことがない作品に仕上がった」と自負する素晴らしい映画に結実した。
ストーリーは、極めて単純で分かりやすい。それは50年の歴史の中で沢山のキヤスト(俳優)が亡くなっているのを回想という場面で処理しているからだ。
山田監督は、見事に50年間のこの複雑な人間模様を織り込みながら寅さん像を表現した。ストーリーは、若い俳優を主役に使い、甥子役の満男(吉岡秀隆)が小説家として登場、妻の七回忌法要で柴又の実家を訪れ、母・さくら(倍賞千恵子)父・博(前田吟)と久しぶりに会う所から始まる。しかし伯父・寅さんには会えずいつも味方でいてくれた人が居ないので満男の心には大きな穴がぽっかり空いていた。
いまの満男は、小説家としては成功して書店でサイン会に呼ばれるほど人気は出ていた。その会場に現在ヨーロッパに住む初恋の人イズミ(後藤久美子)が、偶然現れ驚きの再会となる。
演出の技巧が冴えわたる
これらは、若い俳優を出演させなければ映画の山場を設定できない難しさもあったと思うが、さすが山田マジック、配役の妙を新作出演者と旧作の回想場面を巧みな演出技術を駆使してフアンを惹きつけた。寅さんの登場も自然に挿入。
勿論、歴代マドンナが、次々登場して寅さんとの極め付き名場面が、4kDEJITARUで修復されて甦る。マドンナの中でも最も寅さんと親密で、ついに結婚か。と言われながら寅さんの早とちりで失うシーンも描かれて、私だけでは無く折角のチャンスなのにと悲しい思いをした観客は多い筈。
本作で満男と初恋のイズミは、その後どうなるのだろうと興味も覗かせたが、いずれにしても晩年まで寅さんを優しく支えた倍賞千恵子、前田吟、夏木マリなど傍役が、年を取っても元気な姿で演じている姿に映画への愛情と感動を覚えた。
「あなたにまた逢えるなんて、叶うはずもないと思っていました。なのに、逢いたくて、逢いたくて・・・みんな違うと思うけれど。本当に、ほんとうにお帰りなさい。」
これが、今を生きる私たちに「未来と希望」を与えてくれた魂の証的作品だと私は思う次第である。(札幌在住シナリオ作家/森 道夫)
<付記>
私の好きなマドンナベスト3=浅丘ルリ子、いしだあゆみ、竹下景子。作品ベスト3=寅次郎相合傘(15作)、寅次郎夕焼け小焼け(37作)、寅次郎ハイビスカス(48作)。寅さん言葉ベスト3=いま幸せかい、それを言ったらおしまいよ!、男が女に惚れるのに歳なんかあるか!

