
1955(昭和30)年〜1965(昭和40)年
「椿三十郎」東映時代劇を斬る
東宝の「椿三十郎」(監督・黒澤明)が公開されたのは、1962(昭和37)年1月1日で、完成が遅れて元旦封切りになった。
この作品、前年の「用心棒」の続編とも言われるもので、「用心棒」では、桑畑三十郎(三船敏郎)がたった1人で宿場の悪人どもを全滅させるのに対し、ここでは上役の汚職を暴き出そうと立ち上がる、9人の若侍たちの味方につき、その凄腕でお家騒動の黒幕と対決する物語。
井坂伊織(加山雄三)をはじめとする若侍の、血気にはやる暴走をうまくコントロールし、敵の室戸半兵衛(仲代達矢)と、丁々発止の知恵くらべをするが、最後にその室戸半兵衛と対決する。この決斗シーンはまさに圧巻。日本映画史に残る有名なシーンとなった。
斬られた室戸半兵衛の身体から血が噴き出すという特殊効果が用いられていた。この手法は「用心棒」でも使われていたが、夜間シーンで暗いことと出血の量が少なかったため目立たなかった。

血飛沫が噴き出す表現は観客を驚かせた
これを今回、多少オーバーぎみに「椿三十郎」で演出した。今回はピーカンの日中「ドバー」と血飛沫が噴き出す表現は観客を驚かせた。この作品で時代劇に革命が起きた。まさに革命だった。前年公開した「用心棒」(監督/黒澤明)で、その伏線はあった。

今までの時代劇の殺陣は歌舞伎調の延長線上にあった。いわゆる型にはまった綺麗、綺麗のチャンバラは、斬られても着物はそのまま、出血はしない、音も出ない。現実にはあり得ない戦いである。東映に代表される時代劇は、昔から殆どそうだった。
ところが「用心棒」では、リアルな殺陣が表現されていた。また「用心棒」の殺陣は、主役の桑畑三十郎が相手を斬る際、必ず1人を二度斬っている。「一度斬ったぐらいでは、直ぐには死なないだろう」という黒澤監督と三船敏郎の考えによって完成した殺陣という。
また、「七人の侍」以来多用した望遠レンズの効果が遺憾なく発揮され、殺陣をより効果的に見せている。それを決定的にしたのが「椿三十郎」だった。
40秒で30人を叩き斬るシーン
併せて、椿三十郎がわずか40秒で30人を叩き斬るシーンなど、殺陣の見どころを始め、物語の面白さなど話題の多い作品だった。また、「椿三十郎」は、この年の興収ベスト2位に入った。 この作品で東映時代劇は完全にノックアウトされた。今までのリアル感の無い時代劇は観客を遠ざけた。踊っているような殺陣、夜間シーンなのに昼間のように明るい照明、脚本の安易さなどが、もう通用しなくなった。これ以降、東映時代劇が衰退する。日本時代劇の変革だった。変わって東映に「ヤクザ映画」が台頭して来る。

