
「それいけ!アンパンマン よみがえれ バナナ島」(テアトル東京)

22年ぶりの快挙
「えいが それいけ!アンパンマン よみがえれ バナナ島」は、2012(平成24)年7月に公開された。やなせたかし原作によるシリーズ通算第24作の中編アニメーション映画である。 脚本は金春智子、監督は矢野博之。全国135スクリーンで上映され、初日2日間の興収は約7,260万円、動員は約6.2万人と、前作比で約150%となり、前売り券セールスも好調で、東京テアトル配給となった、第11作目以降の映画シリーズで最高のオープニング興収となり、第1作「キラキラ星の涙」、第2作「ばいきんまんの逆襲」に次いで22年ぶりに興行収入が4億円を突破し、最終興行収入は約5億1000万円となった。

テーマは「復興」、一大事に、敵も味方もない。
本作のキャッチコピーは「元気がみんなのチカラになるよ!」。 前年の東日本大震災を反映して、「復興」をテーマとしており、天候異変のため、バナナが枯れた島をよみがえらせようと、アンパンマンたちはバナナ島へ向かう。
「バナナはね、子供も、大人も好き。僕も毎日食べるんですけど。デパートへ買いにいくと、夕方には売り切れちゃう。そんな人気の食べ物でやろうと」と、原作者のやなせは語り、アニメ作りにおいても、冷静な判断を持ち続ける。「アニメで最も手間がかかるのが、群衆処理。島の住人がバナナなら、描くのが易しくなる。その上、バナナは非常に形が愛らしい」
今作では、敵役のばいきんまんも島のために活躍。 そこに、作者の思いが込められている。「一大事に、敵も味方もないでしょ。現在、私たちが住む地球は相当に危なくなっている。そんなときに、戦争で互いを殺し合うのは実に愚劣」と語気を強める。「そのうち気付くはずです。国内で戦うことが、バカげていると気付いたんだから。いざというとき、助け合うよりほかにないとね」。
実は、90歳を超えたとき、引退を考えたこともあった。東日本大震災直後、心筋梗塞と肺炎、腸閉塞を同時に起こして入院したが、「“生きて”しまったんだよね。目も耳も悪いし、体は相当に傷んでいる。でも、生きている間に、やれることはやると決めた」と言う。
「アンパンマンのマーチ」は、迷う人々への励ましのメッセージ
「なんのために生まれ、何をして生きるか。分からない人が結構いる。俺もそうだった」と、やなせは語る。「手のひらを太陽に」などの作詞家としても知られるやなせが手掛けた「アンパンマンのマーチ」の歌詞は、迷う人々への励ましのメッセージだ。
「友人の娘がまだ4歳なので、少しでも安心できるように、アンパンマンの歌をリクエストします。よろしくお願いします。」 震災直後から、ラジオ局には、やなせが作詞した「アンパンマンのマーチ」へのリクエストが殺到し始めた。 「深く染みて、目の奥がじんわりしました」、「この曲の深さが伝わってきます」、「生きることのメッセージが伝わってくる」など、困難に直面した多くの人たちが、生きることを讃えた「アンパンマンのマーチ」の歌詞の、ひと言ひと言に励ましを求めたのである。
被災地、仙台の少女から手紙が来た。 「私は地震がきても少しも怖くない。アンパンマンが助けに来てくれるから」-。 子供の心にアンパンマンは実在する。 「幼い俺もサンタクロースがいると信じていて、家に煙突がないから、クリスマス前夜は寒い中、窓を少し開けて寝たんだよ。だから非常に責任を感じちゃってね。それで被災地を何かの意味で元気づけなくちゃいけないと思い、アンパンマンのポスターを描いて送ったら、避難所や病院に貼るということで、あっという間に無くなってしまったと。あと、歌をつくったり、現地でコンサートなんかもやって、子どもたちに喜ばれたみたいです」
映画公開の翌年2013(平成25)年10月13日、やなせたかしは心不全のため94歳で死去。病の身体を押して被災地支援に乗り出し、被災者に勇気を与えた。直筆の色紙やポスターの傍らには、“きっと君をたすけるから”と詩を必ず書き添えていたという。
「今度の震災の時にですね、いちばん多く歌われたのがアンパンマンのテーマソングであったというのを聞いた時はね、本当にうれしかった。役に立ったと思いましたね。僕も長い間ね、自分は、いったい何のために生まれたのか、何をして生きるのか、ずいぶん悩んだんですけど、やはり、だから自分は子どものためにお話を書いたり、絵本を描いたりするのが自分の天職だなあと、このごろになって思うようになった」

