
名探偵コナン・ゼロの執行人(東宝)

公開1カ月で前作の興収記録を更新
「名探偵コナン ゼロの執行人」は、2018(平成30)年4月に公開された、日本の長編アニメーション映画である。監督は、第15作「名探偵コナン・沈黙の15分」から、第21作「名探偵コナン・から紅の恋歌」まで7作連続で務めた静野孔文監督に代わり、立川譲監督を初めての長編作品監督として抜擢したが見事成功した。作品は公開1カ月で前作の興収記録を抜いて、91.8億円となり、最終的に6作連続でシリーズ最高興収を更新した。
ちなみに、シリーズ興収の内訳だが、第17作「名探偵コナン・絶海の探偵(プライベート・アイ)」が36.3億円、第18作「名探偵コナン・異次元の狙撃手(スナイパー)」が41.1億円、第19作「名探偵コナン・業火の向日葵(ひまわり)」が44.8億円、そして第20作「名探偵コナン・純黒の悪夢」で63.3億円と大きく伸び、第21作「名探偵コナン・から紅の恋歌(ラブレター)」は68.9億円と、驚異的な数字を上げた。

前々作「純黒の悪夢」のヒット要因を分析して、人気キャラが再登場
96年1月にスタートしたテレビアニメシリーズを指揮し、映画製作にも関わる読売テレビ(大阪)の諏訪道彦エグゼクティブ・プロデューサーによれば、シリーズ興収記録が跳ね上がった「純黒の悪夢」は記念すべき劇場版第20作で、名探偵コナンの根幹でもある「黒ずくめの組織」をストーリーに絡めた特別な作品であるという。さらに、組織の一員でもある安室透(降谷零)と、かつて組織に潜入捜査をしていたFBI捜査官・赤井秀一の2人の対決を取り入れ、推理ものというよりスパイアクションとして、劇場版らしいスペシャル感を前面に出し、盛大に煽った作品であり、その流れを引き継いでいるのが、本作である。
公安絡みだからこそ生きた脚本家
本作は、「純黒の悪夢」で劇場版に初登場した公安警察所属の安室がメインキャラクターとして登場し、主人公の江戸川コナンの前に立ちはだかるというストーリーであり、日本中に“安室透ブーム”を巻き起こし、「安室の女」と称する女性ファンが続出した。
その安室は、「私立探偵の安室透」、「黒ずくめの組織の構成員バーボン」、「公安警察官の降谷零」という3つの顔(トリプルフェイス)を持つ複雑なキャラクターである。当然、安室が主人公となれば公安絡みのストーリーとなり、公安といえば警察や検察との絡みなど、テレビ朝日の人気ドラマ「相棒」シリーズの脚本も手掛ける脚本家の櫻井武晴が超得意のエリアである。
ちなみに「純黒の悪夢」も櫻井の脚本であり、原作やアニメでは黒の組織とFBIが対峙するのは定番だが、CIAや公安警察も初めて劇場版に関与した作品であった。
脚本家はアニメと実写のボーダレス化が進行中だが・・・
一昔前まで、実写の脚本家とアニメーションの脚本家は明確に分かれていたが、アニメやマンガのドラマ実写化が相次ぐ中、実写作品よりヒットが確実な長編アニメ作品には、櫻井のようなベテランの脚本家が続々と参入している。
例えば、「名探偵コナン」シリーズには、第6作「名探偵コナン・ベイカー街(ストリート)の亡霊」で野沢尚、第10作「名探偵コナン・探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)」、第11作「名探偵コナン・紺碧の棺(ジョリー・ロジャー)」で柏原寛司、第21作「名探偵コナン・から紅の恋歌」、第23作「名探偵コナン・紺青の拳」では推理小説作家の大倉崇裕という具合である。
櫻井が語る。
「名探偵コナンを書く際、子供向けにしようと思わないでくださいとプロデューサー陣にも言われました。『分かりやすくする』と『簡単にする』は違う、『子供向け』と『子供だまし』は違う。『子供向けの作品』から学ぶことは多かったです。そして、『子供向けの作品』には、まじめに“ドラマ”を作ろうとする大人がたくさんいました」
「アニメと実写、将来どっちの脚本家になりたいのかは、重要かもしれない。もちろん両方書けた方がいいし、両方書ける人もいる。自分もそうなりたい。自分はまだアニメのテクニックを手に入れてないから言えないけど、とにかく違う。時代劇、病院医者物、刑事・捜査物、アニメーション…この4つは脚本家で書けた方がいいと思っている。どれが得意かは、あってもいい。ただその中で一番違うのは、アニメーション」だと。

