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日本映画100年史

本【日本映画100年史】をリアルタイムで加筆していく、ライブブックブログ!

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日本を代表する昭和の名女優!・山田五十鈴‐その3‐

2019.11.27 by 西川昭幸

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山田五十鈴(平成24年没)

三回目の結婚は、俳優の加藤嘉である。松竹映画「影法師」(主演:阪東妻三郎)で、山田は阪妻と一四年ぶりに顔合わせ相手役を務めた。ここに脇役で出演していた劇団民藝の加藤嘉がいて親交が深まった。加藤とは急速に接近し、1950(昭和25)年5月結婚する。山田三三歳の時である。

加藤はこの時、妻子がいたが正式に離婚しての結婚だった。加藤は山田より四つ年上で、滝沢修、宇野重吉らの劇団民藝の所属俳優だった。長身で痩せていて、頬骨の高い、四角張ったその特異なマスクは、意地の悪い役、悪役、老け役に向いているが、眼は澄み切っていて、言葉つきも振る舞いも溌剌として新鮮だった。

加藤嘉は「山田は僕が共産党員だということは知っていたし、またこのような情勢の中で、あえて無事平穏な生活を棄てて結婚したのだから、浮いた、惚れたという関係だけではないつもりです。」と語っている。山田は新婚気分の中で、加藤に影響され、加藤の色に染まって行く。

加藤嘉の影響を受けた山田は、左翼系独立プロ「新星映画社」への出演へと進んで行く、その間、「箱根風雲録」(監督:山本薩夫)、「女ひとり大地を行く」(監督:亀井文夫)、「雲流れる果てに」(監督:家城巳代治)、「ひろしま」(監督:関川秀雄)等の社会の矛盾を突いた作品に積極的に出演し、汚れ役にも挑んだ。

山田五十鈴のこうした転身をマスコミは「人民女優」と呼ぶようになった。

しかし、加藤嘉との結婚は1954(昭和29)年2月に破局する。四年間の短い結婚生活だった。それも二人の連名で離婚挨拶文として関係者へ送られた。理由は「仕事と家庭の問題が両立出来ない。」というものだった。山田37歳の時である。

後年山田は、加藤嘉との結婚を「私を人間的に成長させてくれた人で、理想的な映画人として、良い仕事を達成するための努力を惜しまなかった人でした。私も社会的にも思想的支柱を確立しておきたいと真摯な気持ちに駆られていた。結局、私は家庭より女優業を選んだの。」と話している。

この時期の山田五十鈴を、監督の亀井文夫は「普通一般の日本の女なら、5~60年かかっても体験しないような、世間の甘さ、辛さを知りつくしている点で、山田五十鈴という名の女は、既に大人以上の大人なのである。」と評した。

四回目の結婚は、加藤嘉との離婚したその年に「唐人お吉」で共演した劇団民藝の俳優・下元勉である。

山田は「もう表だった結婚などは、こりごり。自分なりの愛情をひっそりと温めてゆくようにします。」ともらし生活に入った。しかし下元勉とも長続きはせず、結婚生活は自然解消していく。4回目の結婚が明らかになったとき、マスコミは“六度目の結婚”などと週刊誌のトップ記事で騒いだ。実は先に上げた結婚以外に、山田は同棲生活が二度あった。

一人は新派劇の名優、花柳章太郎である。花柳とは1943(昭和18)年のとき「歌行燈」の撮影で深い中になった。山田はこのとき、女優・清川虹子宅の二階に間借りしいたが一軒家に引っ越し同棲した。年の差23歳。この時もマスコミを騒がせた

もう一人は、監督・衣笠貞之助である。花柳章太郎と別れた後の、1946(昭和21)年「或る夜の殿様」(監督:衣笠貞之助)の出演をしたとき、監督と親密になった。衣笠は京都に家があったが山田と東京で共同生活を始めた。山田は衣笠との同棲生活を「花柳と別れた後だったので、空虚な生活に終止符を打ちたいと考えていたため。」と話しているが、この両名、妻帯者なので、俗に言う不倫であった。六度目の結婚と騒がれたのはそうした理由があった。

マスコミの過熱に、後年山田は、文学座の杉村春子と「週刊朝日」の対談で「いつも誤解されて、男の事でとやかくいわれる。今まで有名税だと思ってきましたが、近ごろではひどく腹が立つんです。なぜ、機会あるごとに私だけ、そんなこといわれるのでしょう。私はそんなに特殊な女なのですか。「男を食ってきた」女優は日本で私しかいない、なんて—-」と憤慨している。直情径行の山田らしい61歳の時である。

「山田五十鈴」の画像
山田五十鈴/舞台「女坂」より(76歳)

山田五十鈴は活動の中心を映画から舞台へ移した。

1961(昭和36)年以降の山田は、活動の中心を舞台に移し、商業演劇で活躍した。1974(昭和49)には、明治から昭和初期に活躍した女芸人を、三味線や落語など多彩な芸を織り交ぜて演じた「たぬき」で芸術祭大賞を受けた。

1987(昭和62)年、山田五十鈴が出演した舞台をファンからアンケートを取り、「狐狸狐狸ばなし」(脚本:北條秀司)、「香華」(原作:有吉佐和子)、「女紋」(原作:池田蘭子)、「淀どの日記」(原作:井上靖)、「千羽鶴」(原作:川端康成)、「女坂」(原作:円地文子)、「菊枕」(原作:松本清張)、「たぬき」(脚本:榎本滋民)、「しぐれ茶屋おりく」(原作:川口松太郎)、「三味線お千代」(原作:平岩弓枝)などの代表作10本を「五十鈴十種」として選んだ。まさに舞台の名作ばかりで興行的にも成功した作品だった。

NHK大河ドラマ「赤穂浪氏士」や、時代劇「必殺」シリーズなど、テレビドラマなどでも親しまれた。

1993(平成5)年朝日賞、2000(平成12)年文化勲章受賞。最後の舞台は2001(平成13)年の芸術座「夏しぐれ」である。その山田五十鈴も2012(平成24)年4月に体調不良を訴えて入院。同年秋に出演予定だった舞台を降板、その後は療養を続けていた。七月九日、多臓器不全のため東京都内の病院で亡くなった。九五歳だった。

山田五十鈴は気さくで、大女優ぶらない人だった。しかし、苦労したせいか孤高特有の孤影が濃かった。山田は両親と、娘の死をみとる事が出来なかった。

芸の手ほどきをしてくれた母が亡くなったときは映画の撮影中、父で新派俳優の山田九州男が亡くなったときは旅公演、更に娘・嵯峨三智子がタイで病死したときは、東京の舞台稽古中だった。こうした境遇で文化勲章を授与されたとき山田は「父も娘も俳優でしたから、泉下で喜んでいるものと思います。」と語って、その言葉が人々の胸をうった。

 生い立ちから、俳優の仕事を、自分の運命と考えていた。晩年、家を手放してホテルで暮らしたのも、芝居に専念するためだった。映画「流れる」で共演した岡田茉莉子は「いらっしゃるだけで存在感があった。明るく気さくで、若かった私を対等に扱って下さいました。映画の演技を知り尽くされていて、しかも楽に表現されているのが羨ましかった。」(朝日新聞)と追悼している。

=主な出演作品=剣を越えて、素浪人忠弥、新大岡政談 魔像解決篇、仇討選手、国士無双、弥太郎笠、白夜の饗宴、盤獄の一生、丹下左膳 第一篇、武道大鑑、風流活人釼、浪華悲歌、祇園姉妹、大阪夏の陣、或る夜の殿様、女優、箱根風雲録、現代人、女ひとり大地を行く、唐人お吉、縮図、雲ながるる果てに、たけくらべ、猫と庄三と二人の女、蜘蛛の巣城、どん底、下町、暖流、用心棒、疑惑。

(山田五十鈴の項終わり)

Filed Under: 四方山話, 昭和 Tagged With: 下元勉, 加藤嘉, 山田五十鈴, 花柳章太郎, 衣笠貞之助

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著者紹介(西川昭幸)

アバター1941年北海道生まれ。東洋大学社会学部卒。
映画会社勤務などを経て現在、公益社団法人理事。
<主な著作>
「北の映画物語」(北海タイムス社)、
「美空ひばり公式完全データブック 永久保存版」(角川書店)、
「活字の映画館 明治・大正・昭和編」(ダーツ出版)、
「日本映画100年史」(ごま書房新社)、
「美空ひばり最後の真実」(さくら舎)、
「昭和の映画ベスト10、男優・女優・作品」(ごま書房新社)

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