

君の名は。(東宝)
最後に出遅れて公開された夏休みアニメ
「君の名は。」は、2016(平成28)年8月に公開された、新海誠監督による日本の長編アニメーション映画である。前作「言の葉の庭」が東宝映像事業部配給、全国23館という、実質的にはODS(非映画コンテンツ)としての公開だったのに対し、新海作品としては初めて製作委員会方式を取り、全国約300館という大規模な興行となった。
しかし、公開日が夏休み最後の週末8月26日(金)であり、これが後に、宮崎駿監督作品「千と千尋の神隠し」に次ぐ、日本映画の歴代興行収入2位の250.3億円となるような超メガヒット作品として大化けすることは、東宝側も製作段階では、全く考えていなかったと思われる。ちなみに、世界での興行収入は3.61億ドルで、「千と千尋」の2.75億ドルを超えて日本映画および日本のアニメ映画で世界歴代興行収入1位となった。
前作までのプライベートフィルムから外部の優秀なスタッフを採り入れたオープン・イノベーションフィルムへ
前作「言の葉の庭」も、「君の名は。」も、監督・脚本・原作・絵コンテ・編集が、新海誠であることは変わらない。大きく異なるのは、企画・プロデュースの川村元気を始めとするベテランの外部スタッフの存在である。
「君の名は。」の製作発表記者会見で、新海監督は、こう語る。「僕は10数年前に自主製作としてアニメーションを作り始めました。それから川口さんと巡り会って、こじんまりと一人で始めたところから徐々に仲間が集まって、作りたいものを作ってきました。ですが、数年前に作った「言の葉の庭」という作品を東宝さんで上映してもらったところ、それが大変楽しい経験になりました。今まで出会ったことのない観客や業界の方々、役者さんに巡り会うことができて、映画興行というのがこれほど楽しいことならば、もっと大きなところでやってみたいという気持ちが強くなりました」 川村の手腕で前作をODS公開したことが、いよいよ次回作を東宝とガッチリ組んで製作する体制へと結びついたわけである。

専用ソフトで制作したビデオコンテ
前作同様に、新海は絵コンテと、それを元に、仮で声も効果音も音楽もつけた100分強のビデオコンテを一人で作り上げた。そのビデオコンテを作成する際に、北米で開発されたストーリボード製作ソフトウェアStoryboard Pro で最初からビデオコンテを作った。そのビデオコンテに対して、川村をはじめとする東宝のチームが何度も意見をぶつけ、新海が修正を加えて出来上がったものが、結果として脚本となった。Storyboard Proの功績で、映画の時間軸がすべてコントロール可能となり、図らずして、ハリウッド映画と同じ三幕構成のわかりやすい構造の作品に仕上がったと云えよう。
ディズニーと同じ作り方
その当時を振り返って、川村はこう語る。 「どうやら『ズートピア』と似た作り方をしていたらしいんです。『ズートピア』は大量のラッシュリール(※制作途中段階での試写用の本編映像)を作って、ラッシュを観てはアニメーターが直して、という作業を何度も何度も繰り返していたらしいんです。ものすごくお金がかかるから普通はそんなことはできない。でも『君の名は。』チームもお金をかけないでそういう作業を行なっていましたよね。新海さんが自分で描いて自分で声を入れて、それを僕らが数人で観て、ああだこうだ言って、新海さんがまた自分で直す、という(笑)。回数だけで言えばそういう作業はピクサー以上にやっていたかもしれない(笑)。実はこれは日本の映画の中ではかなりユニークな作り方だと思います」
スタジオジブリ制作部門の解体がアニメ業界を活性化させた
さて、本作のキャラクターデザインを手掛けた田中将賀は、新海が手掛けたZ会のテレビCM「クロスロード」でもキャラクターデザインと作画監督を担当しており、先に長編アニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」の企画が始動していたためにキャラクターデザインのみを引き受け、作画監督はオープニングだけとなった。そして、田中の代わりに、キャラクター設定表から作画監督を引き受けたのが、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」で作画監督を務めた安藤雅司である。
新海監督は、こう語る。「圧巻でしたし、自分がアニメーション作りを何もわかっていないということを――もちろん、安藤さんはそういう言い方はしないですけれども、改めてつきつけられた気がします」
東宝やRADWIMPSをはじめ、優秀なベテラン外部スタッフと組んで、新海ワールドに新たな広がりをみせたことが、本作の大きな成功の要因と思われる。
