

東京国際映画祭で、ジャパニーズ・アニメーション部門が新設
東京国際映画祭では「アニメーション特集」として、これまでは監督や作品を切り口に複数のアニメ作品を上映してきたが、2019(令和元)年開催の第32回東京国際映画祭では、「ジャパニーズ・アニメーション部門」へと拡大し、日本のアニメーションとVFX(特撮)の約60年にわたる進化と到達点を、多角的な視点で立体的に総覧することになった。 その結果、取り上げられた作品は、下記の通り。
〇日本アニメ映画マスターズ(過去の名作アニメ3作品)
1958(昭和33)年公開 「白蛇伝」 4Kデジタルリマスター版
1979(昭和54)年公開 「エースをねらえ!劇場版」
1988(昭和63)年公開 「AKIRA」
〇日本アニメ映画の到達点(昨年から今年にかけての公開アニメ作品5作品)
2018(平成30)年9月公開 「若おかみは小学生!」
2019(令和元)年5月公開 「海獣の子供」
2019(令和元)年5月公開 「プロメア」
2019(令和元)年6月公開 「きみと、波にのれたら」
2019(令和元)年7月公開 「天気の子」
〇日本VFXの革新と拡張(特撮テレビ作品の4Kリマスター版)
1966(昭和41)年公開 「ウルトラQ」 『2020年の挑戦』ほか4作品
※特別招待作品、アリーナイベント、展示企画は割愛。
なぜ、これらの作品が選ばれたのか
御覧の通り、総覧と云いながらも平成時代の約30年間では1作品しか選ばれず、いびつな構成となっている。これらの作品を選定したのは、東京国際映画祭プログラミング・アドバイザー/明治大学大学院特任教授の氷川竜介である。氷川によれば、選定・構成の基本的な考え方は「過去・現在・未来」の3点セットであり、「現在から未来」に比重を置いたとのこと。
「日本のアニメーション文化は映画興行と寄り添いながら、表現・内容ともに大きく進化していきました。その進化の道筋で、最大級の変化点を3本の映画上映でピックアップ。レクチャー、シンポジウムでその意味づけを補強します」と氷川は語る。
そこで、今回は、氷川とアニメ史研究家の原口正宏、タレントの桜 稲垣早希が出席した、11月2日開催のシンポジウム「アニメ映画史、 最重要変化点を語る」の様子をリポートしたい。
日本のアニメーションの原点は「白蛇伝」
まずは、氷川の「日本のアニメの源流は、大きく2つ。東映動画(現:東映アニメーション)と虫プロ」という言葉から解説がスタート。映画の分野では、1958(昭和33)年公開の東映動画「白蛇伝」、テレビの分野では1963(昭和38)年放送の虫プロダクションの「鉄腕アトム」が起点で、以後は「東映動画・虫プロ」という個性の異なる2大潮流が日本のアニメの歴史を作っていく。
「白蛇伝」は東洋のディズニーを目指した東映動画が最初に作り上げた日本最初のカラー長編漫画映画であり、「鉄腕アトム」は手塚治虫が率いる虫プロが作り出した日本初のモノクロテレビまんがシリーズである。

東映動画VS虫プロ
東映動画は年1回の劇場公開を基本とすることから、ディズニーに連なる自然主義的「フルアニメーション」で製作した。しかし虫プロは週1回のテレビ放送を基本とすることから、動画枚数が少ない「リミテッドアニメーション」を採用した省力化技法を開発。その技巧が、より映画的なトメ絵やカメラワークの反復、透過光・入射光など撮影表現の多用、画面分割などを駆使した表現主義的な方向性を獲得していく。
原口によれば、「白蛇伝」では日本でもディズニーに匹敵する長編アニメをつくりたいという意識と同時に、日本らしい長編アニメとはなにかを模索していたことが、かなり強く出ている作品であり、いろいろな表現を混在させながら、日本人ならではのリアルを追求する流れがあったと「白蛇伝」の魅力を語っている。
TVアニメの技法を映画に昇華した「エースをねらえ!劇場版」
その一方で、虫プロ出身の出崎統が監督した1979(昭和54)年公開の「エースをねらえ!劇場版」は、テレビ時代のリミテッドアニメ技法で映画が撮れることを実証した記念碑的作品であり、作画枚数や動きの面白さではなく、「リミテッドアニメーション」独特の演出技法を武器に映画的センスを高め、カメラワークの反復、透過光・入射光など撮影表現の多用、画面分割などを駆使し、キャラクターの心情や時間感覚を直接、観客に語りかけた。その日本独自の演出スタイルで、“主観的なリアル”を表現する手法は、今も現役である。
また、「エースをねらえ!劇場版」の特筆すべき点は、原作マンガ10巻分のエキスを、たった88分という上映時間に凝縮した驚異の疾走感であると氷川は語る。
