
1966(昭和41)年〜1988(昭和63)年
1度ヒットしさえすれば
映画界では昔から「柳の下にドジョウは2匹いる」といわれてきた。1度ヒットしたらすぐさまその続編をつくる、少し当たればまた新作をつくる。出すたびに新鮮さが減り、客足が遠のいても、1度ヒットしさえすれば、固定された観客を動員でき、興行的に安定していた。
しかし、平たく言えば安易に商売しようと考えたのと、アイデアが枯渇していたのが要因といえる。シリーズ映画というものは、古くは活動写真の時代、つまり映画が日本に入って来たころからすでに試みられていた。
その例の1つが、フランスのエクレール社が製作した「ジゴマ」だった。凶悪なピストル強盗と探偵が登場する、手に汗握るサスペンスである。
最初日本では牧野省三が1923(大正12)年に「紫頭巾浮世絵師」シリーズをつくるが、これはアメリ力の連続活劇にヒントを得たものだった。そうしたシリーズ物は日本映画を支えた。少し列記してみよう。
主要のシリーズ作品
(作品名、配給会社、公開年(西暦表示)、総本数、出演者)
・男はつらいよ(松竹’69 〜’95 )48本 出演・渥美清、倍賞千恵子、前田吟、笠智衆、ほか
・鞍馬天狗(新東宝、松竹、東映、宝塚映画’27 〜’56 )40本 主演・嵐寛寿郎
・社長(東宝’56 〜’71 )33本 出演・森繁久彌、小林桂樹、三木のり平
・右門捕り物帖(新光映画、新東宝、宝塚映画、東宝’26 〜’55 )36本 主演・嵐寛寿郎
・旗本退屈男(市川プロ、東映’30 〜’63 )30本 主演・市川右太衛門


・駅前(東京映画’58 〜’69 )29本 出演・森繁久彌、フランキー堺、伴淳三郎
・銭形平次捕り物控(新東宝、大映’31 〜’61 )28本 主演・長谷川一夫
・座頭市(大映、勝プロ’62 〜’73 )26本 主演・勝新太郎
・警視庁物語(東映’55 〜’64 )25本 出演・堀雄二、神田隆、南廣、ほか
・釣りバカ日誌(松竹’88 〜’09 )22本 主演・西田敏行、三國連太郎
・網走番外地(東映’65 〜’72 )18本 主演・高倉健
・若大将(東宝’61 〜’71 )18本 出演・加山雄三、星由里子、田中邦衛
・女賭博師(大映’67〜’71)17本 主演・江波杏子
・悪名(大映’61 〜’74 )16本 主演・勝新太郎、田宮二郎
・不良番長(東映’68 〜’72 )16本 主演・梅宮辰夫、山城新伍
・水戸黄門(東映’54 〜’61 )14本 主演・月形龍之介
・眠り狂四郎(大映’63 〜’69 )12本 主演・市川雷蔵
・博徒(東映’64 〜’85 )12本 主演・鶴田浩二
・女囚さそり(東映、他’72 〜’12 )12本 主演・梶芽衣子、ほか
・多羅尾伴内(大映、東映’47 〜’49 )11本 主演・片岡千恵蔵
・日本俠客伝(東映’64 〜’71 )11本 主演・高倉健
・仁義なき戦い(東映’73 〜’03 )11本 主演・菅原文太、ほか
・日本一の〜男(東宝’63 〜’71 )10本 主演・植木等
・二等兵物語(松竹’55 〜’61 )10本 主演・伴淳三郎
・トラック野郎(東映’75 〜’79 )10本 主演・菅原文太、愛川欽也
9本以下は、小堀明男「次郎長三国志」。勝新太郎「兵隊やくざ」。市川雷蔵「忍びの者」「陸軍中野学校」「若親分」。小林旭「渡り鳥」。高倉健「昭和残侠伝」。鶴田浩二「博奕打ち」。千葉真一「空手」。藤純子「緋牡丹博徒」「日本女俠伝」。高橋英樹「男の紋章」。などがある。
「ゴジラ」(29本)、アニメ「ドラえもん」(35本)は、現在も続いているので除外した。
これで分かるように、シリーズ映画は創生期から沢山作られた。最近ではコミックの映画化がこうしたシリーズ物に拍車を掛けている。
脚本家の奮起に期待したい
シリーズ物を、観客が無批判で受け入れている事にも一因がある。また、映画のシリーズ化は、例外があっても映画人の企画貧困の何物でもない事も附記したい。
物真似からスタートした日本映画界は、その後、知恵を歌舞伎や小説家に頼り、原作物の映画化が多くなる。この傾向は、残念ながら現在まで続いている。映画がオルジナル性を発揮してこそ良い作品が生まれる。今後、日本映画界にとって脚本家の奮起に期待したい。

