
機動戦士ガンダムUC episode1「ユニコーンの日」(松竹)

今では当り前となったビジネスモデル
機動戦士ガンダムUCは、2010(平成22)年2月に公開された、福井晴敏原作による機動戦士ガンダムシリーズのロボットアニメ。当初は、OVAとして制作されたが、販促PRを兼ねて、限定2週間のイベント上映「プレミアレビュー」を行い、各劇場内では鑑賞者限定でブルーレイディスクの先行発売し、インターネットでは同時配信を行う、と言う今では当り前となったビジネスモデルを確立した作品である。今回は、このビジネスモデルについて、解説したい。
ハリウッドにあって、日本に無いのは・・・?
筆者が思うに、ハリウッド映画には、映画公開時の社会や世の中の変化を予測して、それに呼応すべく、今からどんな映画をつくればヒットするだろうかという市場調査力と企画力がある。例えば、この間まで、ハリウッド映画では女性が主人公の映画ばかり公開されたが、あれは、アメリカ大統領選挙でヒラリー・クリントンが勝利して女性上位の時代が来ると予想した結果であり、現在、アメコミ・ヒーロー映画ばかり公開されているのは、トランプ大統領のような強いアメリカと不確実性の時代に対する反映と推測される。

内部環境と外部環境の変化がヒットを左右する
社会環境や時代が変われば、観客のセンスや好みも変わり、映画自体の評価も変わる。良いものをつくればヒットすると信じる映画人は多いが、いくら良い映画を作っても、公開時に観客がその作品を求めていなければ、誰も見ないし、ヒットしない。リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」といえば、SF映画の流れを変えた大傑作であり、2019(令和元)年にはIMAXでリバイバル公開された大人気作だが、1982(昭和57)年の公開当時は軒並み不入りで、多くの劇場で早々にロードショーが打ち切られてしまった・・・。
映画をヒットさせるのは、映画自体の宣伝ではなく、映画が受け入れられるブームをどうやってつくるか
恐らく、2019(令和元)年の邦画№1ヒットは、新海誠監督の「天気の子」と思われるが、この映画には、ゲリラ豪雨に見られる日本の亜熱帯化や、主人公とヒロインをめぐる貧困生活など、見事に時代のトレンドが反映されている。制作準備段階から、時代の空気を読んで取り入れ、作品に仕立て上げるのは、かつての角川映画のオハコであり、メディアミックス展開で公開される映画の土壌(ブーム)を事前に作り出し、そこに映画を落とし込んでいった。要するに、この原作が面白いから映画化すれば良いだろうという感覚だけで映画を企画するから駄目なのだ。
出資した映画の製作費をどうやって回収するかが最初の勝負
当たり前だが、映画は投資した製作費を回収した上で、次回作の製作費をどうやって稼ぐかが問われる営利ビジネスである。製作費を回収できるか否かの採算分岐点のことを専門用語でリクープというが、ハリウッドの大作映画は製作費を大幅に超過することが多いので、まずは、最低限、赤字にならないよう、どうやってリクープするかが主眼となる。しかし、数年前まで、公開時は映画の前売券や当日券の販売と劇場パンフレットくらいで、後は、テレビ放映権とビデオ販売やビデオレンタルくらいしか、投資回収の方法は無かった。
映像の一次利用からビジネスになる方法
最初からシリーズ展開を前提に考えていても、第一作で失敗して儲からなければ、いくら尻切れトンボになろうとも、続編がつくられることはない。最初からシリーズ展開を前提とするなら、尻上がりにビジネスが拡大していくような仕組みづくりを考えて、確実に、完結作まで製作されるようなビジネスプランづくりが重要になる。そこで、劇場公開時に興行収入だけでなく、ブルーレイディスクの劇場販売で一次利用からしっかり商売にした嚆矢が、本作である。その後スタートした「宇宙戦艦ヤマト2199」や「攻殻機動隊ARISE」、「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」などでも、このビジネススキームは踏襲されて、すっかりメジャーな手法となった。さらに、本作のおかげで、今ではアニメに限らず、本来は劇場公開に適さない実写作品が劇場の大スクリーンで楽しめるようになり、2週間限定がロングラン上映となったり、参加劇場が増えたり、と言う映画人口拡大につながる興味深い結果が出ている。まさに、アニメが邦画をリードする時代と云えよう。

